法人化とは?個人事業主から法人化するメリット、方法について解説
そこでこの記事では、法人化の概要やメリット、基本的な方法について解説します。法人化するにはどうすればよいか知りたい方や、法人化のメリットについて知りたい方は、ぜひ参考にしてください。
- 【この記事のまとめ】
- 法人化とは、個人事業主やフリーランスが会社を設立し、事業を法人として運営することです。
- 法人化のメリットには、節税対策や社会的信用の向上、社会保険への加入などがあります。
- 法人化にはデメリットもあり、設立費用や赤字時の税金負担、社会保険加入義務が生じ、損金算入の範囲も制限されます。
- 法人化とは
- 法人化するメリット
- 節税対策になる
- 社会的信用を得やすい
- 社会保険に加入できる
- 決算期を自由に決められる
- 赤字の場合、10年繰越できる
- 法人化するデメリット
- 法人設立に費用がかかる
- 赤字でも税金がかかる
- 社会保険加入が義務づけられる
- 損金算入の範囲が制限される
- 法人化を検討するタイミング
- 年収が増えたタイミング
- 事業を拡大したいタイミング
- 法人化に必要な費用
- 法人化する手順と流れ
- 1.会社の基本項目を設定する
- 2.定款を作成する
- 3.法人登記書類を作成する
- 4.法人登記の申請を行う
- 5.その他、必要な手続きを行う
- 法人化に関するよくある質問
- 税金面でメリットになるのは所得がいくらから?
- マイクロ法人とは?
- 法人税と所得税はどっちがお得?
- 法人化するならインボイス制度導入の前と後どちらがよい?
- まとめ
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法人化とは
法人化とは、個人事業主やフリーランスが会社を設立し、個人で行っていた事業を法人として引き続き行うようにすることを指します。主に、事業規模の拡大を理由として法人化するケースが多いようです。
法人化するメリット
法人化においては、以下のようなメリットがあります。
- 節税対策になる
- 社会的信用を得やすい
- 社会保険に加入できる
- 決算期を自由に決められる
- 赤字の場合、10年繰越できる
次項にて、各メリットについて詳しく確認しましょう。
節税対策になる
法人化すると、従業員として働く家族への給与を経費にできるようになるなど、個人事業主より経費計上の範囲が広がります。さらに、役員報酬に対して所得控除を受けられるようになり、節税効果が大きくなるところがメリットです。
社会的信用を得やすい
法人化すると、登記申請や決算など社会的責任が求められる機会が増えます。法人としての責任をきちんと果たすことで周囲の信用が高まり、取引が成立しやすくなったり、金融機関から融資を受けられたりといったメリットを期待できます。
社会保険に加入できる
個人事業主の社会保険は国民健康保険と国民年金ですが、法人化した場合は健康保険や厚生年金に加入することになります。厚生年金に入ることで支給年金額が増えるのに加え、傷病手当を始めとした保証を受けられるようになるのが利点です。
決算期を自由に決められる
個人事業主は、毎年12月31日に事業年度を締め、翌年の3月15日までに確定申告を行わなければなりません。一方で、法人の決算期は、自由に決められます。事業の繁忙期を避けるなど、融通の利く月に決算期を定められるため、忙しい時期に大変な決算作業に追われる心配はなくなります。
赤字の場合、10年繰越できる
法人は赤字を10年繰り越しできるため、黒字になったときに赤字と相殺して節税効果を得られます。個人事業主は青色申告をしていれば赤字を3年繰り越せますが、3年経過したら赤字を黒字に相殺することはできません。
赤字が3年以上続く可能性があるものの、将来的に利益を見込める場合は法人化した方が結果的に税金を抑えることにつながります。
法人化するデメリット
法人化には、メリットがあればデメリットもあります。以下のような項目がデメリットとして考えられるでしょう。
- 法人設立に費用がかかる
- 赤字でも税金がかかる
- 社会保険加入が義務づけられる
- 損金算入の範囲が制限される
デメリットもしっかり把握した上で法人化を検討できるよう、ここからは各項目について解説します。
法人設立に費用がかかる
個人事業主は開業届を提出するだけで事業を開始したことになりますが、法人を設立する際には定款認証や登録免許税などの登記費用がかかります。
また、登記を司法書士に依頼した場合の報酬や社印の作成費用など、さまざまな面で費用が発生しますので、あらかじめ十分な初期費用を準備しておくと安心でしょう。
赤字でも税金がかかる
個人事業主の場合、赤字となったときは、保険料や税金の負担が軽減されます。一方で、法人は、赤字でも最低で年間7万円の地方税がかかるため注意が必要です。赤字の繰り越しを活用し、利益が出て黒字となった際に相殺できるよう、将来を見越した事業運営を検討するようにしてください。
社会保険加入が義務づけられる
厚生年金を始めとした社会保険への加入は手厚い保証を受けられるメリットがありますが、コスト増の要因にもなります。理由としては、社員がいる場合は社会保険料を社員と会社が折半することになり、個人事業主のときより保険料の負担が増える可能性があるためです。
収入が安定せず、社会保険料が負担になる場合は、役員報酬額を低めに設定して社会保険料が下がるようにするなど、必要に応じた対策を取り入れるとよいでしょう。
損金算入の範囲が制限される
個人事業主は、事業に関連した飲食費(取引先との打ち合わせなど)であれば全て交際費として損金算入できるのに加え、上限がありません。しかし、法人化すると資本金の額によっては、損金算入の範囲が制限されるため注意してください。
- 【法人の制限範囲】
-
- 資本金が1億円以下:「800万円まで」「50%まで」のどちらかを選ぶ
- 資本金1億円以上100億円以下:50%まで
- 資本金が100億円を超える:損金算入不可
対策としては、交際費でしか処理できない場合のみ交際費として計上し、それ以外の費用で処理すべき場合は適切な勘定科目を使うことが重要です。例えば5,000円以下の飲食は会議費など他の費用として計上できるため、経費処理の条件を把握しておくと安心でしょう。
法人化を検討するタイミング
法人化する際には、最良のタイミングを見極めるのがポイントです。法人化に適しているタイミングを確認しましょう。
- 年収が増えたタイミング
- 事業を拡大したいタイミング
次項で具体的なタイミングを確認し、時期を見ながら法人化を検討してみてください。
年収が増えたタイミング
個人事業主・法人どちらも課税売上高が1,000万円を超えると消費税課税事業者とみなされ、超えた年の2年後に消費税の納税義務が発生します。ただし、法人化すれば2年前の売上は加味されないため、法人化1期目と2期目は原則として消費税の納税義務がありません(ただし資本金による例外あり)。
そのため、2年前の年収が1,000万円を超えたときは、法人化するタイミングです。ただし、納税を遅らせるためには、資本金1,000万円未満の法人を設立する必要があります。
また、2年前の売上が1,000万円を超えてなくても、前年の前半6ヶ月の売上と、役員報酬を含む人件費の支払額がいずれも1,000万円を超えた場合は、その年から消費税を納めなければなりません。こうした場合は、例えば9月1日に3月決算で法人化し、1期目を7ヶ月間にすれば消費税の納税義務が2期免除されます。
事業を拡大したいタイミング
従業員を増やしたり、取引先を増やしたりして事業を拡大したいときも、法人化を検討するタイミングです。例えば法人化すれば社会保険の加入義務が発生します。社会保険制度が整った法人は手厚い保証が期待できるため、従業員が集まりやすいでしょう。
また、企業によっては、個人事業主だと取引対象外となる場合もあります。社会的信頼の高い法人であれば、新規の取引先を開拓しやすく、事業拡大に最適な体制を整えられるのもポイントです。
こちらの記事では、法人化のタイミングについてさらに深堀りしています。
法人化に必要な費用
前述の通り、法人化に伴う会社設立登記には費用が発生します。株式会社や合同会社を設立した場合の費用は、以下の通りです。
- 【株式会社の場合】
-
- 定款用収入印紙代:4万円(電子定款では不要)
- 定款の認証手数料:資本金の額により3万円~5万円
- 定款の謄本手数料:約2,000円(250円/ページ)
- 登録免許税:15万円もしくは資本金額×0.7%のどちらか高い方
合計:約25万円~
- 【合同会社の場合】
-
- 定款用収入印紙代:4万円(電子定款では不要)
- 定款の認証手数料:0円
- 定款の謄本手数料:0円
- 登録免許税:6万円もしくは資本金額×0.7%のどちらか高い方
合計:約10万円~
法人化する手順と流れ
続いては、法人化する際の手順について紹介します。
- 会社の基本項目を設定する
- 定款を作成する
- 登記書類を作成する
- 登録申請を行う
- その他、必要な手続きを行う
基本的な流れを確認し、スムーズに法人化できるよう準備を整えましょう。
1.会社の基本項目を設定する
まずは、会社の基本項目を設定します。ここで決めたことが今後の会社の指針となるため、よく検討して設定することが大切です。
- 【会社の基本項目一覧】
-
基本項目 詳細 会社名 個人事業主の屋号を使っても問題はありません。心機一転、新たな社名にするのもおすすめです。 会社の形態 合同会社や株式会社などの中から、事業に合った形態を選びます。 事業目的 個人事業主時代の事業内容の他に法人化で新たに始めたい事業がある場合は、事前に決めておきます。 本店住所 個人事業主時代のオフィスをそのまま本店住所とできます。ただし、事前に管理会社やマンションの理事会などへ連絡し、法人化によって本店住所として登記申請することは伝えてください。契約や規約などによっては不可である場合もあるため、事前の確認が必要です。 資本金 個人事業主時代の最後の確定申告書や今後の会社の信用、融資の計画などを元に決めることが多いです。顧問税理士に相談するとよいでしょう。
2.定款を作成する
定款とは、上記で定めた会社の基本項目をまとめたもので、会社に1部、公証役場に1部保管されるのが原則です。定款には、必ず記載する絶対的記載事項と定めるならば記載が必要な相対的記載事項があります。このほかに任意で記載できる任意的記載事項もあります。
- 【絶対的記載事項】
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- 商号
- 会社の目的
- 本店所在地
- 設立に際して出資される財産の価額またはその最低額(資本金)
- 発起人の氏名または名称および住所
- 【相対的記載事項】
-
- 株式の譲渡制限に関する定め
- 代表取締役・取締役会・監査役、会計監査人などの設置
- 公告の方法
など
3.法人登記書類を作成する
次に、法人の登記書類を作成します。必要な書類は以下の通りです。
- 【法人登記に必要な書類一覧】
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書類 詳細 取得場所 会社設立登記申請書 商号や本店所在地など、登記する内容を記載する書類です。 各自で作成(参考:法務局の雛形) 登録免許税の収入印紙を貼付した台紙 登記に必要な登録免許税の収入印紙を各自用意した台紙に貼ります。 金融機関や法務局内の印紙売り場(収入印紙) 登記すべき事項を記載した申請用紙・テキストデータ 会社の形態に合わせた登記すべき事項を記載した申請用紙・テキストデータです。テキストデータとしては、CD-R、CD-ROMなどで提出できます。 各自で作成(参考:法務局の作成例一覧) 定款 公証役場で認証を受けた定款を提出します。電子定款によるオンライン申請も可能です。 各自で作成 取締役の就任承諾書 取締役として就任を承諾したことを証明する書類です。 各自で作成 払込証明書 発起人によって資本金が所定の銀行口座に振り込まれたことを証明する書類です。払込内容などが記載された書面、銀行口座の通帳の表紙・表紙裏・振り込み内容が記帳されているページのコピーを用意します。 各自で作成 印鑑届出書 法務局で代表印を印鑑登録をするために必要な書類です。 各自で作成(参考:法務局の雛形)
4.法人登記の申請を行う
必要な書類がそろったら法務局へ行き、窓口に提出します。1週間ほどの登記審査後、登記事項証明書の取得が可能となったら申請完了です。
5.その他、必要な手続きを行う
登記申請後、税務署などで必要な手続きを行います。主な手続きは、以下の通りです。
- 【その他、必要な手続き一覧】
-
手続き 申請方法 必要書類 詳細 法人設立届 税務署へ提出
都道府県税事務所へ提出
市町村役場へ提出
法人設立届・定款の写し、登記事項証明書の写し 税務署:会社設立から2ヶ月以内に提出
都道府県税事務所:期限は各自治体によって異なる
市町村役場:期限は地域によって異なる
青色申告の承認申請 税務署へ提出 青色申告の承認申請書 会社設立から3ヶ月以内に提出 給与支払事務所等の開設届出 税務署へ提出 給与支払事務所等の開設届出書 会社設立から1ヶ月以内に提出 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請 税務署へ提出 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書 適用したい月の前月末日までに提出 健康保険・厚生年金保険新規適用届 年金事務所へ提出 健康保険・厚生年金保険新規適用届、登記事項証明書、法人番号指定通知書のコピー 会社設立から5日以内までに提出 健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届 年金事務所へ提出 健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届 被保険者になってから5日内までに提出
なお、法人化によって個人事業を廃業する場合は、廃業届も必要です。
- 【廃業届に必要な手続き一覧】
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手続き 申請方法 必要書類 詳細 個人事業の開業・廃業等届出(所得税) 税務署へ提出 個人事業の開業・廃業等届出書 事業を廃止した日から1月以内に提出 事業廃止届出(消費税) 税務署へ提出 事業廃止届出書 事業廃止後、速やかに提出(消費税の納税義務者であった場合のみ) 所得税の青色申告の取りやめ届出 税務署へ提出 所得税の青色申告の取りやめ届出書 事業を廃止する年の翌年3月15日までに提出 給与支払事務所等の廃止届出 税務署へ提出 給与支払事務所等の廃止届出書 事業を廃止した日から1月以内に提出(給与を支払っていた場合のみ) 所得税及び復興特別所得税の予定納税額の減額申請手続 税務署へ提出 所得税の予定納税の7月(11月)減額申請書 第1期分・第2期分の減額申請は、その年の7月1日から7月15日まで
第2期分のみの減額申請は、その年の11月1日から11月15日まで(税務署から通知された予定納税額が多い場合、減額のために提出)
なお、個人事業主としての事業の一部を継続する場合や、不動産所得が発生する場合は、廃業届の提出は必要ありません。
法人化に関するよくある質問
法人化に関しては、疑問に思うことも多いのではないでしょうか。最後に、よくある質問と回答を紹介します。
税金面でメリットになるのは所得がいくらから?
個人の事業所得600~800万円以上が、税金面でのメリットが大きいです。例えば個人の事業所得が800万円の場合、所得税と住民税の税率は最大で合計約33%です。
一方で、法人化した場合は400~800万円までの合計税率が約25%であるため、法人化した方がお得といえます。ただし、税率は各市町村で異なるため、あくまでも目安として考えてください。
マイクロ法人とは?
マイクロ法人とは、従業員を雇用せず事業を行う経営形態のことを指します。プライベートカンパニーとも呼ばれ、個人事業主時代の小規模体制を維持しつつ、法人化による節税メリットを得たい場合におすすめです。
法人税と所得税はどっちがお得?
所得税は累進課税であり、所得金額によって7区分の税率が設定されますが、基本的に法人税は一律です。所得金額が多くなれば法人税の方がお得になり、所得金額が少なければ所得税の方がお得になる場合があるため、所得額を確認した上で法人化するかよく検討するようにしてください。
法人化するならインボイス制度導入の前と後どちらがよい?
法人化をするのであれば、インボイス制度の導入前がよいでしょう。法人化する場合、一定の条件を満たすことで最大で2年間の消費税免除期間が適用されます。しかし、インボイス制度が始まると免税事業者は適格請求書を交付することができないため、場合によってはこの消費税の免税期間が必ずしもメリットとは言えない場合があります。
そのため、法人化を検討している事業者は、インボイス制度が開始される時期(2023年10月1日)までに、できるだけ早く法人化を行うとよいでしょう。
まとめ
法人化には、節税対策になる・社会的信用が高まるなどのメリットがある一方で、法人設立に費用がかかるなどのデメリットもあります。
年収が増えたタイミングや事業を拡大したいタイミングに、メリットとデメリットの両方をよく考えた上で法人化を決めることが大切です。また、法人化に際してはさまざまな手続きが必要となるため、便利なサービスを利用すると効率的でしょう。
「起業の窓口」では、個人事業主の方々に向けて、業務効率化のヒントや成功事例、最新のビジネス情報など、お役立ち情報を提供しています。
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- 記事監修
-
- 中野 裕哲 HIROAKI NAKANO
- 起業コンサルタント(R)、経営コンサルタント、税理士、特定社会保険労務士、行政書士、サーティファイドファイナンシャルプランナー・CFP(R)、1 級FP 技能士。 V-Spiritsグループ創業者。東京池袋を本拠に全国の起業家・経営者さんを応援!「あの起業本」の著者。著書16冊、累計20万部超。経済産業 省後援「DREAMGATE」で11年連続相談件数日本一。