LLP(有限責任事業組合)とは?メリットや設立方法、事例を解説
LLP(有限責任事業組合)とは、Limited Liability Partnershipの略称です。
LLPは法人と自然人の間に位置する組織形態であり、事業主の個人資産を保護しながらビジネスを展開することができます。この記事では、LLPの概要やLLC、株式会社との違いについて解説します。また、LLPを選択するメリットやデメリットについても説明します。
独自のビジネスモデルを構築し、法的リスクを最小限に抑えながら事業を展開するためにも、LLPの特徴と運営上のポイントを理解しましょう。
- 【この記事のまとめ】
- LLP(有限責任事業組合)は、イギリス発祥の事業形態で、出資金額に関係なく、構成員全員が平等に責任を負い、自由なルール設定が可能です。
- LLPの設立は費用が安く、短期間で可能な一方、法人格がないため契約の締結や財産保有が制限されるデメリットがあります。
- LLPは法人格を持たず、パス・スルー課税が適用されますが、株式会社への組織変更はできず、利益が拡大しても組織変更が困難です。
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LLP(有限責任事業組合)とは
LLP(有限責任事業組合)とは、有限責任事業組合契約に関する法律によって定められた事業組合のことです。
「Limited Liability Partnership(リミテッド・ライアビリティ・パートナーシップ)」の略で、構成員が出資費用の金額に関係なく平等に責任を負い、事業でのルールや権限を自由に変えられます。
また、出資金額に関係なく、会社への貢献度や労力が重要視されるのもLLPの特性です。
LLPの発祥地はイギリスで、その後はアメリカを含む世界各国に広がるようになり、2005年から日本にも上陸しました。
任意組合と株式会社の魅力や良い部分をうまく取り入れたLLPは、任意組合や株式会社とは異なる新しい事業といえるでしょう。
LLP(有限責任事業組合)とLLC (合同会社)の違い
LLC (合同会社)とは、組合員課税や有限責任などの特徴を持った新しい会社形態です。
LLC(合同会社)では社員は有限責任社員となり、責任範囲は出資額に限定されます。
さらに、出資金に関係なく利益の分配比率が決められるため、出資比率が小さくても貢献度が高い社員に利益の配当が可能です。AmazonやApple、GoogleなどもLLC(合同会社)に該当します。
では、LLP(有限責任事業組合)とLLC (合同会社)は、具体的に何が違うのでしょうか。
LLP(有限責任事業組合) | LLC (合同会社) | |
---|---|---|
法人格があるか | なし | ある |
株式会社へ組織変更が可能か | 不可 | 可能 |
表からわかるように、「法人格があるか」「株式会社へ組織変更ができるか」の2点が、両者の大きな違いとなります。
LCC(合同会社)は法人として課税されるため、構成員にも所得税が課されます。一方、LLP(有限責任事業組合)は法人格ではないため法人として事業で出た利益に課税されず、構成員に課税されるパス・スルー課税が適用されるのです。
また、もう1つの大きな違いとしてLCCは組織変更が可能です。そのため、会社の利益が拡大した場合や会社の規模を拡大したい場合は、法人として事業を進められます。反対に、LLPでは利益が増額した場合でも途中で組織変更ができません。
LLP(有限責任事業組合)と株式会社の違い
株式会社とは、自社が発行した株式を出資し、出資者に購入してもらえることで資金を調達する会社です。
株式を購入した株主が、会社の経営に影響を及ぼし、会社で出た利益を配当金として受け取れます。
株式会社は、資金の調達がしやすく、社会的信頼度が高いのも特徴です。一方、株主が経営に影響を及ぼすため経営の自由度が低く、役員の任期が最長10年までと決まっているなどのデメリットもあります。
以下の表では、株式会社とLLPの違いをまとめています。
LLP(有限責任事業組合) | 株式会社 | |
---|---|---|
決算公告 | 義務なし | 義務あり |
利益配分 | 組合契約で自由に定めることが可能 | 株式の数に応じて配分が可能 |
表からわかるように、株式会社では決算公告の義務がありますが、LLPでは書類の作成のみで公告の義務はありません。
また、会社で出た利益は保有している株式の数で配分が決まる株式会社に対して、株式の保有数ではなく契約で自由に定められることも、大きな違いだと言えます。
LLP(有限責任事業組合)の特徴
LLP(有限責任事業組合)の特徴として、以下の3つが挙げられます。
- 構成員全員が有限責任となる
- 内部自治を徹底しやすい
- 構成員課税が適用される
ここでは、特徴について詳しく解説していきます。
構成員全員が有限責任となる
LLP(有限責任事業組合)の特徴として、構成員全員が有限責任を負うことが挙げられます。構成員は、出資額に応じた有限責任を負うため、出資額以上の負債は負わなくてよいのが特徴です。そのため、組合が事業で失敗し大きな負債をかかえたとしても、構成員が返済や責任を負う義務は発生しません。
内部自治を徹底しやすい
LLP(有限責任事業組合)では、内部自治を徹底しやすいのが特徴です。内部自治原則では、権限や事業で得た利益は出資額に比例せず、会社への貢献度や労働力などを重要視し自由に利益配分が行えます。
また、原則として決め事がある場合は組合員に同意を得る必要がありますが、契約書に同意不要と明記している場合は同意が必要ありません。
同意を待つ手間が省け、事業を円滑に進められるのは大きなメリットと言えるでしょう。
構成員課税が適用される
LLP(有限責任事業組合)は、法人格はないため利益に対する課税は組合に直接課税することが可能です。直接課税されることを、構成員課税と呼びます。
通常、法人格されている団体は法人税と所得税が課税されますが、LLPは法人の権利能力があるわけではないため、組合員が法人の場合は法人税を課税し、組合員が個人の場合は所得税を課税する仕組みです。
そのため、法人税は課税されず、2重課税にはなりません。
LLP(有限責任事業組合)のメリット
LLP(有限責任事業組合)のメリットは、以下の通りです。
- 設立費用が安い
- 短期間で設立できる
- 決算公告の義務がない
- 組合員の任期がない
- 損益通算できる
LLPを利用するそれぞれのメリットについて、以下で詳しく解説していきます。
設立費用が安い
LLP(有限責任事業組合)を設立するメリットに、設立費用が安いことが挙げられます。
通常、株式会社を設立するには法定費用として25万円程度必要ですが、LLPでは6万円程度の法定費用で設立が可能です。
また、株式会社では法人税が必要になりますが、LLPは個人の課税のみで法人税が不要なため税金の費用がかかりません。
設立費用を抑えられれば、新規事業を展開するハードルが下がるため、事業を始めやすくなる利点があります。
短期間で設立できる
LLP(有限責任事業組合)は、設立までにかかる時間が短いため、短期間の内に設備が可能です。通常、株式会社の設立には20日程度必要ですが、LLPでは10日程度で設立できます。
短期間で設立できると、新規事業を始めやすいタイミングを逃すことなく参入が可能です。
決算公告の義務がない
LLP(有限責任事業組合)では、公告の義務がありません。通常、株式会社などでは公告を行う必要があります。
そのため、公告を行う時間や配布する資料を作成する手間を省けます。
組合員の任期がない
LLP(有限責任事業組合)では、組合員に任期がありません。なぜなら、LLPは組合に所属している人たちでできているため、役職や任期が定められていないのです。
株式会社では、役員の任期は最長10年と定められています。
任期や役職が定められていなければ、任期満了による入れ替えが不要になります。
そのため、無駄な労力や資金を減らすことが可能です。
損益通算できる
LLP(有限責任事業組合)では、発生した損益と出資者が他の事業で得た損益とを通算できます。損益通算とは、同年の利益と損益を相殺することです。
LLPでは、事業で得た利益に法人税が課税されず、個人に所得税のみが課税される仕組みとなります。
損益通算ができれば控除額が大きくなり、支払税金を減らすことが可能です。
LLP(有限責任事業組合)のデメリット
LLP(有限責任事業組合)のデメリットは、以下の通りです。
- 法人格がない
- 株式会社へ組織変更ができない
LLPを利用するデメリットについて、次から詳しく解説します。
法人格がない
LLP(有限責任事業組合)は、株式会社のような法人格がありません。そのため、LLPでは契約の締結は行えず、財産を保有できないのです。
また、利益が大きくなると支払う税も増えるため、税率が一律な法人よりも構成員の負担が増えることもあります。
利益率によってはLLPの方が得をする可能性もあるため、利益率で見極めるのもよいでしょう。
株式会社へ組織変更ができない
LLP(有限責任事業組合)では、途中から法人格のある株式会社へ組織変更はできません。
利益が大きくなった場合は、税率が一律な法人に変更すると支払う税金が抑えられます。
しかし、LLPでは途中から法人に変更することは認められないため、法人にするためには一旦解散しなければいけません。
一旦解散すると、今まで築き上げてきた業績もリセットされてしまいます。
LLP(有限責任事業組合)の設立方法
LLPを登記する手順は、以下の通りです。
- 設立基本事項を決定する
- 構成員と交わす契約書を作成する
- 出資金を振り込む
- 必要書類を揃えて法務局に提出する
- 登記完了後税務署や保険関係も提出する
LLPは出資金の払い込みの完了日か組合契約の締結日のいずれか遅い日に成立します。
その成立を公にするために構成員と交わす契約書の作成の他に、法務局などに必要書類を提出して登記をしなければなりません。
法務局に提出するのに必要な書類は、以下の通りです。
- 有限責任事業組合契約書
- 出資の払込を証明する書面
- 組合員の印鑑証明書
- 事務所の所在地を証明する書面
- 有限責任事業組合契約効力発生登記申請書
- 印鑑届出書
- 印鑑カード交付申請書など
登記が完了すると、LLPの登記簿謄本や印鑑証明書が手に入ります。必要な書類を管轄の税務署に提出し、手続きを完了させましょう。
手続きには時間がかかるため、手続きがスムーズに行えるように、事前に必要書類を集めて、どのような組合を作るか決定しておく必要があります。
LLP(有限責任事業組合)の活用事例
LLP(有限責任事業組合)は、さまざまな企業で活用されています。
- 事例1:NTT-グリーン有限責任事業組合
- 事例2:HMB有限責任事業組合
- 事例3:延岡精密機器設計製作有限責任事業組合
2008年に設立されたNTT-グリーン有限責任事業組合では、太陽光発電施設によるエネルギー供給や関連サービスを提供しています。
NTT-グリーン有限責任事業組合では、LLPの原則である組合員の同意を実施しており、4つの分科会で決定された案を経営会議で最終決議することをスタイルとしています。
2009年に設立されたHMB有限責任事業組合では、無線センサーネットワークを用いた橋梁の点検や安全性診断システムの開発をおこなっています。
HMB有限責任事業組合では、11名の出資割合は大きく異なるものの、組合員が同一の議決権を持ち、平等性を確保しています。
延岡精密機器設計製作有限責任事業組合は、旭化成グループを得意先にもつ延岡鉄工団地協同組合の構成員を中心に設立されました。
本業を持ちつつ、新たな事業を運営するためには柔軟な組織運営ができるLLP(有限責任事業組合)が望ましいと考え設立にいたりました。個々の案件に、複数の構成員で取り組むか外部に委託するかなど話し合いですべて決定し、成約にもいたっています。
参考:経済産業省|LPPの活用事例
まとめ
本記事では、LLP(有限責任事業組合)の特徴やメリット、成立方法について解説しました。LLPは、出資割合など関係なく、会社への貢献度や労力も考慮して平等に議決権限が与えられます。また、事業が法人格とされないため法人税がかかりません。
そのため、自由に事業を展開したい人や設立までに時間をかけたくない人はLLPで参入するのをおすすめします。
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- 記事監修
-
- 中野 裕哲 HIROAKI NAKANO
- 起業コンサルタント(R)、経営コンサルタント、税理士、特定社会保険労務士、行政書士、サーティファイドファイナンシャルプランナー・CFP(R)、1 級FP 技能士。 V-Spiritsグループ創業者。東京池袋を本拠に全国の起業家・経営者さんを応援!「あの起業本」の著者。著書16冊、累計20万部超。経済産業 省後援「DREAMGATE」で11年連続相談件数日本一。