業務委託契約書とは?契約書の種類や記載内容、作成時の注意点を解説
業務委託契約書は、企業だけでなくフリーランスにとっても重要な契約書ですが、具体的にどのような内容が記載されているのでしょうか。
業務委託契約書には、業務内容や報酬、契約期間などが詳細に記載され、トラブルを未然に防ぐ役割があります。
また、契約書の種類によって、受注者の業務遂行における裁量の範囲が異なるため、自分(自社)に合った契約形態を選択することが大切です。
この記事では、業務委託契約書の種類や主な記載内容、作成時の注意点、受託する際の注意点について詳しく解説します。
- 【この記事のまとめ】
- 業務委託契約書は、企業やフリーランス間の委託業務の内容や報酬、契約期間などを詳細に記載し、トラブル防止と双方の権利・義務を明確にするために重要です。
- 業務委託契約書と雇用契約書の違いは、対等な関係で契約されるか、主従関係で労働義務が発生するかであり、業務委託では自らの裁量で業務を遂行します。
- 業務委託契約書は請負契約や委任契約など複数の種類があり、業務内容や報酬、知的財産権、秘密保持などの項目を明確にすることでリスクを軽減します。
2024年11月1日より、フリーランス保護法が施行されます。
組織に所属せずに働くフリーランスが安心して働ける環境を整備するために、フリーランスと企業などとの発注事業者間の取引の適正化(契約書等により取引条件を明示する)が主な目的です。
詳しくは次の記事をご覧ください。フリーランス保護法の概要、制定された背景や具体的な内容などを解説しています。
業務委託契約書とは?
業務委託契約書とは、業務を委託する企業(発注者)と受託する企業やフリーランス(受注者)の間で交わされる契約書のことです。
この契約書には、委託業務の内容や報酬、契約期間、守秘義務などが詳細に記載されます。
一般的に、業務を委託する発注側が業務委託契約書を作成し、受注側がその内容を確認した上で署名することで締結となります。
業務委託契約書はトラブルを未然に防ぎ、双方の権利と義務を明確にする重要な役割を担っているのです。
なお、業務委託契約書の記載内容については法律で義務付けられていないため、発行者がその内容を自由に決めることができます。
雇用契約書との違い
業務委託契約書と雇用契約書は、似ているようで異なる点が多くあります。
雇用契約書は、労働者と雇用主の間で交わされ、労働条件や雇用期間などを明確にするための契約書です。
雇用契約書には主に以下のような内容が記載されます。
【雇用契約書に記載される主な内容】
- 給与
- 就業場所
- 契約期間
- 業務内容
- 始業・終業時間
- 休日
- 交代制のルール
- 退職に関する情報
締結により、労働者には労働に従事する義務が、企業には労働者に対して賃金を支払う義務が発生します。雇用主と労働者で主従関係を結ぶのが雇用契約の主な特徴です。
一方、業務委託契約書は発注者と受注者の間で対等に交わされるもので、委託業務の内容や報酬などが記載されます。
業務委託契約では立場がそれぞれ独立しており、受注者は自らの裁量で業務を遂行するのが一般的です。
業務委託契約書を締結する目的
業務委託契約書を締結する主な目的は、委託業務の内容や条件を明確にし、トラブルを防ぐことです。
契約書として契約内容を事細かに残しておくことで、発注者と受注者の認識のズレを防ぎ、スムーズな業務遂行を可能にします。
万が一トラブルが発生したとしても、契約書を基に解決策を探ることができるため、リスク管理の面でも重要な役割を果たします。
そもそも民法上では、契約書を作成しなくても口頭で委託契約を締結することが可能です。
業務委託契約書の作成は必須ではありませんが、口頭だけでは内容の伝え漏れがあったり、後ほど確認ができなかったりするため、業務委託契約書の作成が求められるのです。
適切な業務委託契約書の締結は、長期的な信頼関係の構築に向けた第一歩ともいえます。
業務委託契約書の種類
業務委託契約書には、主に以下のような種類があります。
請負契約
請負契約では、受注者が特定の仕事を完成させることを約束し、発注者がその仕事の結果に対して報酬を支払います。
一般的に請負契約を締結する際は、納品物や成果物が既に決まっており、受注者が自己の裁量と責任で業務を完成させます。
【請負契約で委託する業務の例】
- Web制作
- ライターの記事制作
- 広告制作
- システム開発
- 製造物の制作
完成物の定義が明確に決められていることが多く、仮に条件を満たしていない場合は、受注者が業務を終わらせてもその後に修正を行い、再度納品しなければなりません。
業務を遂行せずに途中でやめてしまった場合、受注側は報酬を受け取れない可能性があります。
委任契約
一般的に委任契約の場合、受注者は発注者から委任された事務を処理することを約束し、発注者はその処理の対価として報酬を支払います。
民法(643条)では、「委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる」と定義されています。
委任契約は特定の業務の完遂ではなく、発注者が業務の遂行を委任する典型契約です。
受注者には善管注意義務が課せられ、発注者の利益を最優先に業務を遂行する必要があります。法律行為に用いられることが多い契約です。
準委任契約
準委任契約は委任契約の一種ですが、受注者が発注者から委任された業務を行うにあたり、法律行為に該当しているかどうかがそれぞれ異なります。
準委任契約は法律行為に該当しない場合の契約であり、受注者は善管注意義務を負いますが、委任契約ほど厳格ではありません。
IT関連の業務やコンサルティング業務などで活用されています。
業務委託契約書の主な記載内容
業務委託契約書には、さまざまな項目が記載されます。
業務内容
委託する業務の内容を詳細に記載します。具体的な業務内容を記載することで、双方間におけるトラブルを防ぐことが可能です。
例えば、どのような業務を委託するのか、どこまでの範囲を業務に含めるのか、などの記述が求められます。
曖昧な表現は後にトラブルの原因となるため注意が必要です。
業務内容について全て書き切れない場合は、「関連業務並びに付随業務の一切を含むものとする」という項目を追加し、そこで詳細を補足します。
また、「その他、甲乙間で別途合意した業務」という項目を追加すれば、想定外の業務が発生した場合に効果的です。
委託料
委託料は、業務の対価として支払われる報酬を指します。
業務委託契約において重要な記載事項の1つであり、金額の算出方法や支払い時期などを明記するのが一般的です。
固定報酬制や実費精算制、成功報酬制など、報酬の形態についても検討し、明確に記載する必要があります。
また、着手金があるかどうかも記載しておくと良いでしょう。
支払方法・支払条件
支払方法・支払条件では、委託料の支払い方法や条件を明確に取り決めます。
一括払いや分割払い、納品後の支払いなどが該当し、支払いのタイミングや手段についても双方で合意しておくことが重要です。
トラブルを避けるためにも、支払いが遅延した場合の措置や、振込手数料の負担についても明記しておくことが推奨されます。
契約期間
契約期間は、業務委託契約の有効期間を定める項目です。委任契約の場合に限らず、請負契約でも契約期間を事前に定めておくことがポイントです。
契約開始日と終了日を明記し、期間内は契約内容に従って業務を遂行します。
自動更新の有無についても記載しておくことで、契約終了後の取り扱いを明確にできます。
知的財産権
知的財産権の項目では、業務遂行により生じた知的財産権の取扱いについて取り決めます。
知的財産権が発注者と受注者のどちらに帰属するのかを明確にすることが重要で、トラブル防止のためにも事前の合意が不可欠です。
業務委託契約の場合、成果物納品と同時に発注者に権利が譲渡されるケースが一般的です。
この項目では、知的財産権の利用範囲や、第三者への譲渡・利用許諾などについても規定しておくと良いでしょう。
秘密保持条項
秘密保持条項は、業務上知り得た秘密情報の取り扱いについて定めます。
発注者が受注者に一定の内容を要求するのが一般的で、受注者は秘密情報を保持し、第三者に漏洩しないよう注意しなければなりません。
具体的には、秘密保持の範囲や期間、違反した場合の措置などを記載します。たとえ業務が終了しても、一定期間は秘密保持の契約が継続される場合がほとんどです。
損害賠償
損害賠償の項目では、契約違反や債務不履行により生じた損害の責任について決めます。
損害賠償の範囲や限度額、請求方法などを明記する項目で、リスク管理の観点から非常に重要な項目といえるでしょう。
受注者は損害賠償の金額等を十分に確認し、金額をできるだけ小さくできるよう交渉することが望ましいです。
納品の期限
業務委託契約書では納品の期限についても取り決める必要があります。
納品の前後は一番トラブルにつながりやすいので、業務の完了日や納品日をあらかじめ定めておきます。
業務内容に応じて具体的な期日を設定し、遅延した場合の措置についても記載しておくと良いでしょう。
また、納品物の検収方法や修正対応の期限なども明確にしておくと、納品や修正がスムーズに進みやすくなります。
契約不適合にかかる請求等が可能な期間
契約不適合の期間は、納品物に不具合や瑕疵(かし)があった場合の対応について定める項目です。
受注者にとっては、契約不適合の期間が短いほど対応の手間が生じにくくなります。
不適合の判断基準や補修・交換の期限、不適合の責任分界点などを記載します。
有効期限
業務委託契約書には、業務の有効期限も記載します。契約書の発効日と失効日を明記し、期間内は契約内容が適用されます。
業務の内容や納期が決められている請負契約であっても、有効期限は事前に決めておくべきです。
委任業務で長期的に契約する場合は、自動更新の有無についても決めておくことをおすすめします。
所轄裁判所
所轄裁判所は、契約に関してトラブルが生じた場合の裁判所を定める項目です。一般的には、発注者または受注者の所在地を管轄する裁判所を指定します。
遠くの裁判所が指定されている場合、裁判所に出向くまでに時間がかかってしまうため、事前に双方で確認を取ることが大切です。
業務委託契約書を作成する際の注意点(作成者)
業務委託契約書を作成する際は、いくつかの注意点があります。
業務内容や期間を具体的に記載する
業務委託契約書には、委託する業務内容や期間を具体的に記載する必要があります。
曖昧な表現が用いられていると、業務を遂行していく中で受注者からクレームがあったり、後々トラブルに繋がったりする恐れがあります。
曖昧な表現は避け、業務の範囲や成果物の仕様、納期などを明確に定めましょう。
また、業務の進捗報告や検収方法、知的財産権の扱いについても記載することで、トラブルを未然に防ぐことができます。
収入印紙が必要な場合もある
業務委託契約書には、収入印紙が必要な場合があります。
請負契約の業務委託契約書を作成する場合、印紙税法に基づき、契約金額に応じた収入印紙を貼付しなければなりません。
収入印紙は業務委託契約書の作成者が負担します。契約金額に応じて必要となる収入印紙は以下の通りです。
記載された契約金額 | 税額 |
---|---|
1万円未満のもの | 非課税 |
1万円以上 100万円以下のもの | 200円 |
100万円を超え 200万円以下のもの | 400円 |
200万円を超え 300万円以下のもの | 1,000円 |
300万円を超え 500万円以下のもの | 2,000円 |
500万円を超え 1,000万円以下のもの | 1万円 |
1,000万円を超え 5,000万円以下のもの | 2万円 |
5,000万円を超え 1億円以下のもの | 6万円 |
1億円を超え 5億円以下のもの | 10万円 |
5億円を超え 10億円以下のもの | 20万円 |
10億円を超え 50億円以下のもの | 40万円 |
50億円を超えるもの | 60万円 |
契約金額の記載のないもの | 200円 |
ただしすべての請負契約の業務委託契約書に上記金額の収入印紙が必要なわけではありません。例えば継続的取引の基本となる契約書(第7号文書)の場合は、4,000円の収入印紙が必要になります。
また、例えば税理士との税務代理や税務相談に関する契約書については「不課税文書」となり、収入印紙の貼付が不要になります。このように、契約書の種類や契約先、契約金額によって必要な収入印紙の金額が異なるため、事前によく確認することが重要です。
「偽装請負」に気をつける
業務委託契約を結ぶ際は、「偽装請負」に気をつける必要があります。
偽装請負とは、実質的には労働者派遣や労働者供給に該当するにもかかわらず、業務委託契約を結ぶ行為のことを指します。
偽装請負は法律によって禁止されているため、契約内容や業務実態を十分に確認し、適切な契約形態を選択することが重要です。
業務委託が偽装請負に該当するかどうかは、業務の実態から判断されるため注意が必要です。
業務委託契約書を受託する際の注意点(受注者)
業務委託契約書を受託する際にも、いくつかの注意点があります。
まず、委託内容や報酬、納期などの条件が自分(自社)で対応可能な範囲内であるかを十分に確認する必要があります。
無理な条件で契約を結んでしまうと、品質の低下や納期遅延などのトラブルに繋がりかねません。
また、契約書に記載されているリスク分担や瑕疵担保責任、知的財産権の帰属などについても合意しておくことが重要です。
曖昧な部分があれば、発注者に確認を取り、書面で明確にしておくことが望ましいといえるでしょう。
業務委託契約書を作成せずに業務を委託しようとする企業も存在し、その場合、後々双方間でトラブルに発展する可能性があります。
トラブルを未然に防ぐためにも、書面として契約内容をしっかりと残しておくよう、業務開始前に発注者と相談するようにしましょう。
また、業務委託で仕事を請け負っている場合も、所得金額によっては確定申告が必要です。詳しくは次の記事をご覧ください。
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業務委託契約書は、発注者と受注者の間で交わされる契約書であり、トラブルを防ぎ、円滑な業務遂行のために重要な手続きの一つです。
契約書には、業務内容や報酬、各種条件などが詳細に記載され、双方の権利と義務を明確にする役割があります。
業務委託契約書を作成する際は、業務内容や期間を具体的に記載し、収入印紙の貼付や偽装請負に注意することが大切です。
受託する際は、委託内容や報酬、納期などの条件を十分に確認した上で、リスク分担や機密情報の取り扱いについても留意しましょう。
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出典:FREENANCE
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- 記事監修
-
- 中野 裕哲 HIROAKI NAKANO
- 起業コンサルタント(R)、経営コンサルタント、税理士、特定社会保険労務士、行政書士、サーティファイドファイナンシャルプランナー・CFP(R)、1 級FP 技能士。 V-Spiritsグループ創業者。東京池袋を本拠に全国の起業家・経営者さんを応援!「あの起業本」の著者。著書16冊、累計20万部超。経済産業 省後援「DREAMGATE」で11年連続相談件数日本一。