年末調整の還付金が支払われるのはいつ?発生するケースや計算方法を紹介
年末調整は、一年間の所得税を精算するための重要な手続きです。
年末調整の還付金がどのような条件で発生するのか、どのように受け取ることができるのか、基本的なことから具体的な計算方法までをわかりやすく紹介していきます。
年末調整の還付金に関する知識を深め、スムーズな税務処理にお役立てください。
- 【この記事のまとめ】
- 年末調整の還付金は、実際の所得税が支払額を下回った場合に戻ってくる過払い分です。
- 還付金が発生するケースには、結婚、扶養者の増加、障がい者控除の適用などがあり、各種控除の適用状況が影響しますので確認が必要です。
- 還付金は一般的に12月の給与に上乗せされますが、支払い方法は会社によって異なります。
年末調整の還付金とは?
年末調整の還付金とは、一年間に支払った所得税が実際の所得に対して多かった場合に、戻ってくる過払い分の金額のことです。
年間を通じての所得や適用される控除額が計算され、最終的に納めるべき税金の正確な額が算出されますが、すでに支払った税金が算出された額を上回っていれば、差額が還付金として戻ってきます。
年末調整は税金の過不足を正確に調整し、納税者が公平な税額を支払うための重要な仕組みです。
還付金が発生するケース
年末調整の還付金は前述の通り、納め過ぎた所得税額があった場合に戻ってくるお金のことです。各種控除に該当する場合、還付金が発生する可能性が高いでしょう。
ここでは、還付金が発生する可能性が高いケースを紹介します。
結婚
その年に結婚し、配偶者が「配偶者控除」や「配偶者特別控除」の対象となった場合、最大38万円の控除が受けられます。(その年の12月31日現在70歳以上の配偶者の場合は48万円)
その結果、所得税の負担が軽くなり、年末調整で還付金が戻ってくることも少なくありません。
なお、両方の所得控除を併用することはできず、控除には条件もあるため確認しておきましょう。
扶養対象者の増加
年内に扶養対象者が増加すると納税者の控除額が増加し、結果として課税所得が減少します。
家族構成の変化があった際には、「扶養控除」の適切な申告を行うことで節税効果が期待できるでしょう。
なお、扶養控除は何歳からでも受けられるわけではなく、12月31日時点で16歳未満の子どもは扶養控除の対象外です。
夫と離婚または死別
夫と離婚もしくは死別した人のうち、以下の条件にあてはまる場合は、27万円の控除が受けられる「寡婦控除」の対象となります。
- その年の12月31日現在「ひとり親」に該当しない
- 夫と離婚後に結婚しておらず、扶養家族がいる人で、合計所得金額が500万円以下
- 夫と死別後に結婚していない、または夫の生死が明らかでない一定の人で、合計所得金額が500万円以下
本人または家族が障がい者
納税者本人が障がい者である場合や、障がい者である家族がいる場合は「障害者控除」を受けられる場合があります。
障害者控除は、障がい者手帳や医師の診断書など、障がいの程度を証明する書類の提出が必要です。
- 障害者:27万円
- 特別障害者:40万円
- 同居特別障害者:75万円
上記が障がい者の区分別の控除額です。
なお、すでに届出を済ませている場合は、考慮のうえで所得税計算がされており、還付金が戻ってこないケースもあります。
ひとり親
2020年(令和2年)から、ひとり親家庭の税負担を軽減するための「ひとり親控除制度」が開始となりました。
以下のすべての要件を満たすことで、性別や婚姻歴に関係なく一律35万円の控除が受けられます。
- 事実上の婚姻関係とみなされる一定の人がいない
- 生計を一にする子がいる(その年分の総所得金額等が48万円以下で、他の人の同一生計配偶者や扶養親族になっていない人に限る)
- 合計所得金額が500万円以下
事実婚は実質的な結婚とみなされるため、ひとり親控除の対象とならないため注意しましょう。
また、ひとり親は寡婦控除と併用できず、重複する場合はひとり親控除が優先となります。
個人で社会保険料を支払った
会社の給与から毎月差し引かれる健康保険料や厚生年金保険料の他にも、個人で社会保険料を支払っている場合、その金額は社会保険料控除の対象となります。
控除対象となる主な社会保険料は、以下の通りです。
- 健康保険料
- 厚生年金保険料
- 国民年金保険料
- 国民健康保険料(税)
- 雇用保険料
- 介護保険料
- 後期高齢者医療保険料
- 公務員共済の掛け金
- 国民年金基金の掛け金
- 厚生年金基金の掛け金
自分の社会保険料だけでなく、生計を一にする配偶者と親族の分を支払っている場合も、控除の対象となります。
地震保険や生命保険に加入
地震保険や生命保険、医療保険、個人年金保険、学資保険などの保険に加入している場合、要件に当てはまれば控除が受けられます。
保険の種類や支払い保険料によって控除額は変わるため、あらかじめ確認しておくといいでしょう。
各種保険の控除を受ける場合、「給与所得者の保険料控除申告書」と合わせて保険会社から送付される「保険料控除証明書」を提出する必要があるため、大切に保管しておきましょう。
住宅ローンを組んでいる
自分が暮らすための住宅の購入や自宅のリフォームで住宅ローンを組んだ人で、一定の要件を満たす人は「住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)」を利用可能です。
控除額は購入物件の種類や住宅の性能、入居時期によって異なります。
住宅借入金等特別控除は「税額控除」となり、直接税金そのものから差し引かれるため、該当すれば還付金が大きくなる可能性があるでしょう。
なお、住宅借入金等特別控除を受ける場合、初年度は確定申告をする必要があり、2年目以降は年末調整で対応可能です。
iDeCoに加入している
iDeCo(個人型確定拠出年金)も年末調整が受けられる所得控除の一つです。
正式には「小規模企業共済等掛金控除」といい、掛金を拠出したことを証明する「小規模企業共済等掛金払込証明書」を添付して提出することで、全額が所得控除されます。
原則として確定申告義務のない会社員や公務員はiDeCoの控除を忘れてしまいがちのため、他の控除と合わせてしっかりチェックしておきましょう。
還付金を受け取れるタイミング
年末調整による還付金を受け取れるタイミングは勤務先によって違いがありますが、一般的には毎年12月に支払われる給与に上乗せして支払われます。
ただし、還付・徴収を給与支払いと同時に行わなければならないという決まりはありません。
会社によっては給与とは別に還付・徴収を行ったり、現金で手渡ししたりするケースもあるため、詳細は勤務先に確認しておきましょう。
還付金を受け取る方法
年末調整による還付金の受け取り方にはいくつかの方法があり、会社によって異なるため気になる場合は確認しておきましょう。
ここでは、還付金を受け取る各方法の詳細と、それぞれの特徴について解説します。
給与とは別に振込み年末調整の還付金は給与に上乗せされるのが一般的ですが、別途振り込むことも可能です。ただし、この方法を採っている会社はほとんどありません。
給与に合算して振込み
年末調整の還付金は、手数料や手間をなくすため、給与と一緒に還付金が振り込まれるケースが多いです。
還付金がいくらかは、給与明細と源泉徴収票で確認できます。会社によっては「◯◯還付」とわかりやすく書かれていることもあるでしょう。
なお、給与を手渡しで支給している会社の場合、年末調整の還付金も一緒に手渡しとなることがあるようです。
還付金はどれくらい支払われる?
年末調整における還付金の額は、個々の納税者の事情によって大きく異なるものです。
扶養家族の増減などにより還付金がいくら戻るかは変わり、場合によっては徴収されることもあります。
ここでは、年収200万円、500万円、800万円の各ケースにおける還付金の見込み額について詳しく解説します。
なお、ここで紹介する金額は給与・基礎控除・給与所得控除・社会保険料控除のみを考慮して計算しており、あくまで目安です。
実際には年収に対する賞与の割合や各種控除によって還付金額が変動するため、正確な額が知りたい場合は社内の担当者に確認しましょう。
年収200万円の場合
以下は、年収200万円の場合の還付金の一例です。(100円未満は切り捨てて計算)
- 年収:2,000,000万
- 社会保険料:300,600円
- 源泉徴収税額:32,800円
- 年調年税額:26,900円
上記の条件で算出した場合、還付金は5,900円となります。
年収500万円の場合
以下は、年収500万円の場合の還付金の一例です。(100円未満は切り捨てて計算)
- 年収:5,000,000万
- 社会保険料:894,400円
- 源泉徴収税額:142,200円
- 年調年税額:121,000円
上記の条件で算出した場合、還付金は21,200円となります。
年収800万円の場合
以下は、年収800万円の場合の還付金の一例です。(100円未満は切り捨てて計算)
- 年収:8,000,000円
- 社会保険料:1,169,700円
- 源泉徴収税額:499,000円
- 年調年税額:462,500円
上記の条件で算出した場合、還付金は36,500円となります。
年末調整における還付金の計算方法と手順
ここでは、年末調整における還付金の計算方法と手順について詳しく説明します。
給与と源泉徴収額を集計する
年末調整における還付金計算を行うときには、年間を通じて得た給与の総額と、給与から差し引かれた源泉徴収税の合計を確認します。
スムーズに計算するため、あらかじめ以下の書類を用意しておくといいでしょう。
- 1年間(1月〜12月まで)の給与明細
- 所得控除対象となる保険などの支払額が確認できる書類
- 住宅ローン年末残高が確認できる書類
このとき、非課税の支給となる通勤交通費・立替経費、副業で得た額は含めないよう注意しましょう。
給与所得控除後の給与を計算する
続いては、給与所得控除後の給与の計算です。
給与などの収入額から給与所得控除額を差し引き、給与所得の金額を算出します。
給与所得控除額は収入金額によって、以下のように変動します。(出典:No.1410 給与所得控除/国税庁)
給与等の収入金額 | 給与所得控除額 |
1,625,000円まで | 550,000円 |
1,625,001円〜1,800,000円まで | 収入金額×40%-100,000円 |
1,800,001円〜3,600,000円まで | 収入金額×30%+80,000円 |
3,600,001円〜6,600,000円まで | 収入金額×20%+440,000円 |
6,600,001円〜8,500,000円まで | 収入金額×10%+1,100,000円 |
8,500,001円以上 | 1,950,000円(上限) |
またさらに、社会保険料・生命保険や地震保険、個人型確定拠出年金、扶養控除なども合わせて計算し、控除額を確定させていきます。
各種控除後の金額が「課税所得額」です。
ここで算出した課税所得額を以下の式で計算したものが、年間の「所得税額」となります。
- 【所得税額=課税所得額×税率ー控除額】
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課税所得額別の税率や控除額は、以下の通りです。(出典:No.2260 所得税の税率/国税庁)
課税所得額 税率 控除額 1,000円〜1,949,000円まで 5% 0円 1,950,000円〜3,299,000円まで 10% 97,500円 3,300,000円〜 6,949,000円まで 20% 427,500円 6,950,000円〜8,999,000円まで 23% 636,000円 9,000,000円〜17,999,000円まで 33% 1,536,000円 18,000,000円〜39,999,000円まで 40% 2,796,000円 40,000,000円以上 45% 4,796,000円
年税額から住宅借入金等特別控除額を差し引く
ここまでで算出した年間の所得税額から、住宅借入金等特別控除額を差し引いた額が「年調年税額」です。
そして、実際に支払った税額と年調年税額の「差額」が還付金や徴収金となります。
毎月の計算では控除対象になっていない保険料控除などを申告することがほとんどのため、還付金が発生する人が多いでしょう。
まとめ
年末調整の還付金とは、その年の源泉徴収額が本来納めるべき所得税額よりも多かった場合に、納税者に戻ってくるお金のことです。
還付のタイミングは12月もしくは1月となることが一般的ですが、明確なルールがあるわけではないため、会社によってさまざまです。
正しく、スムーズに還付を受けるためにも、必要書類を不備なく準備しておきましょう。
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- 記事監修
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- 中野 裕哲 HIROAKI NAKANO
- 起業コンサルタント(R)、経営コンサルタント、税理士、特定社会保険労務士、行政書士、サーティファイドファイナンシャルプランナー・CFP(R)、1 級FP 技能士。 V-Spiritsグループ創業者。東京池袋を本拠に全国の起業家・経営者さんを応援!「あの起業本」の著者。著書16冊、累計20万部超。経済産業 省後援「DREAMGATE」で11年連続相談件数日本一。