【株式会社MD】製造と企画の両輪で挑む、ビューティーケアの新境地
東京大学農学部卒業後、住友商事に入社した石井さんは、グローバルな金属トレーディングに携わり、世界の名だたる企業との取引を経験しました。
その後、P&Gジャパンのマーケティング職に転職し、ファブリーズやジョイなどの商品のブランドマネジメントを歴任。
そして2020年7月3日、マーケティングコンサルティング会社「Marketing Demo株式会社(現:株式会社MD)」を設立。自身が執筆したnoteの『【1時間で分かる】P&G流マーケティングの教科書』が大人気コンテンツに。
現在、ビューティーケア分野でB2C化粧品ブランド開発、B2B化粧品OEM事業に励む石井さんに、起業までの道のりや経営者として大切にしているマインドなどをお伺いしました。
石井賢介さんのご経歴
- 東京大学農学部を卒業後、「住友商事株式会社」に入社。アルミニウム地金のトレーディングに従事。
- 中途採用で「P&Gジャパン」に転職。マーケティング本部にて、ファブリーズやジョイなどのブランドマネジメントを担当。2020年5月末に退社。
- 2020年7月3日に「Marketing Demo株式会社」を設立し、代表取締役に就任。マーケティングコンサルティング事業を展開。noteに執筆した『【1時間で分かる】P&G流マーケティングの教科書』が、同年のビジネスカテゴリにおいて”最も読まれたnote”と認定される。2022年8月23日に社名を「株式会社MD」へ変更。
- 2023年8月から自社化粧品ブランドの販売を開始し、2024年1月から工場を買収し化粧品OEM事業(ベイコスメティックス)に参入。
- 現在、B2Cブランド開発事業を手がける「株式会社MD」と、B2B化粧品OEM事業を手がける「株式会社ベイコスメティックス」の両輪でビューティーケア事業を展開。
ビューティーケア市場で、B2C/B2Bの両面展開に挑む「株式会社MD」

ー現在、経営されている会社名と主な事業内容を教えてください。
「株式会社MD」という会社を経営しており、今6期目を迎えました。
創業当初は、マーケティングコンサルティングを主軸とした”マーケ戦略屋”的なビジネスを展開していました。しかし、3年ほど経った頃、拡大性と実現可能性に違和感を感じました。それなら「自分たちのプロダクトを持とう!」と決意し、化粧品ビジネスを立ち上げました。
現在のメイン事業は、化粧品を中心としたビューティーケア領域で、B2Cのブランド販売とB2BのOEM事業を両面展開しています。
ビューティーケア分野で、消費者市場(B2C)と企業向け市場(B2B)の両方を手掛けるブランドメーカーとして、実際に第四工場まで持つ製造業として、企画から製造までの幅広い価値を提供できることが当社の大きな強みです。
何事にも「ナンバーワン志向」で行動していた学生時代
ー学生時代、会社経営に憧れを抱いたエピソードがあればお聞かせください。
学生の頃は、社長になりたいなんて全然思っていませんでした。母は専業主婦、父は典型的なサラリーマン管理職というごく普通の家庭で育ったので、経営とかビジネスの雰囲気があったわけでもありません。
ただ、小さい頃から「何か特別なことをやりたい」という漠然とした気持ちはずっとあった気がします。普通に大企業に入って出世して、60歳で引退して…みたいな人生には、どこか物足りなさを感じていたんですよ。
昔から「何かやるならナンバーワンを狙いたい!」ということで、大学は東京大学に進学しました。この「どうせやるなら一番になりたい」っていう行動原理は、今でもずっと自分の中で生きています。
大学院進学のプランから一転。商社の世界で道を切り開く決断
ー東京大学農学部を卒業後、「住友商事株式会社」に入社された理由を教えてください。
当初は大学院への進学を考えていたんですが、親から「大学院に行くなら自分で学費を払いなさい」と言われました。でも、バイトして自分で学費を出してまで大学院に行くのはどうなんだろう…と疑問に思い、就職することに決めました。
ただ、就活を始めたタイミングが遅くて。秋採用が始まる時期に4年生でも入れる会社を探していたんです。特にやりたいこともなかったので給料の良い会社を狙って、住友商事や三井物産、丸紅、野村證券、大和證券などの限られた会社と面接をしました。
特に選べる立場でもなかったので、面接の進んだ会社では、「最初に内定を出してくれた会社に行きます。」と伝えていました。大変ありがたいことに「住友商事」が手を上げてくれました。本来、海外の大学生向けの秋採用なんですが、英語力もない純ジャパニーズの自分が選ばれたのはラッキーだったと思います。
「経営者」という存在を意識し始めたのは、住友商事に入社してからです。やるならナンバーワンを狙うという行動原理が働いて、「せっかく住友商事に入社できたし、社長になることを目標にしよう!」と思いました。
グローバル企業との取引を経験した住友商事時代

ー「住友商事」で得た知識や経験、成長体験などをお聞かせください。
今MDでやっている化粧品ビジネスと総合商社の仕事は、正直まったくの別領域なので、当時の知識が直接役に立つことはあまりなくて。でも、住友商事に入って本当によかったなと感じています。
住友商事では、主にアルミのトレーディングを担当していました。通常のトレーディングの場合は、「500円で仕入れて600円で売る」ような分かりやすいビジネスですが、アルミは違います。わかりやすいところでは金や原油と同じでロンドンの金属取引所「London Metal Exchange」で価格が常に変動しているんです。アルミが99.7%以上含まれていれば、どこに売っても品質も価格もほぼ同じなので、安いときに大量に仕入れて高いときに売る、「在庫持ち型」のビジネスモデルなんです。(本当はずっと複雑ですが、簡単のため)
商社というのは、本来あまり在庫を持たないものですが、アルミ取引ではリスクヘッジをしつつしっかり在庫を持ちます。世界中からアルミを仕入れて横浜港に運び、証券会社を通じて空売りなどでリスク管理を徹底する。そんなダイナミックな仕事に携わっていました。
取引先も「ゴールドマン・サックス」とか「モルガン・スタンレー」といった金融機関から、「トヨタ自動車」や「日産自動車」といったメーカーまで、グローバルなプレイヤーが幅広くいました。
自分は自動車産業のセクターを中心に見ていましたが、入社2年目で誰もが知る大手企業とのとんでもなくデカいディールをまとめることもできて、本当に面白い世界で仕事ができたなと今でも思っています。
ー住友商事に在籍中、マーケターとして成長できる要素はありましたか?
住友商事での経験を通じて、会計や決算を読めるようになり、契約書もある程度普通に理解できるようになりました。こうして商売全体を俯瞰できる力がついたのは、すごくよかったと思います。
世間的に「石井はマーケティングの人」っていうイメージが強いかもしれませんが、僕個人としてはマーケターである前に「強い商売人でありたい」と常に思っています。
世の中には「マーケティングしかできないマーケター」が結構多くいますが、自分の場合は営業も企画も、実務から戦略まで一通り全部やれると考えています。こういうビジネス感覚を身につけることができたのは、住友商事のおかげかもしれません。
正直、自分は「マーケティングそのもの」より、「商売!」のほうが好きで。アルミのトレーディングも「どれだけ売ったか」がすべてで、稼げる人間ほど評価されました。「儲からない仕事なんてつまらないよね」っていう風潮さえありました。
その価値観は今の自分の中に残っていますし、「自分の力でちゃんとしっかり成果を出せれば、ビジネスはもっと面白くなるはずだ!」と常に思っています。
これに共感してくれているのが現MDのメンバーたちで、必要以上の意義や幻想を保つ必要はないと理解してくれています。
P&G時代の苦悩
ー「P&Gジャパン」への転職理由と当時の心境について教えてください。
住友商事での仕事はすごく楽しかったですし、上司やチームにも恵まれていたんですが、ど真ん中の出世コースにはいませんでした。
ある日、「30歳でどこかの子会社の社長になりたいです」と上司に相談したところ、「30歳じゃ住友商事の子会社の社長にはなれない。どんなに小さい会社でも40歳からじゃないかな」と言われました。20年後に中間管理職から社長になる未来ーーそれは自分の理想とする人生のタイムラインからズレすぎているので、転職を本気で考えるようになりました。
その後、インターネットで求人を探していた際に、P&Gのマーケティング職の求人を発見しました。当時、P&Gについてあまり詳しくなかったんですが、「マーケティングという仕事は面白いらしい」くらいの認識で応募しました。
外資のコンサルや金融も候補にありましたが、自分の周りの友人を見ていると、どうやら自分には向いていないと思いました。気づいたときにはP&Gの面接を受けて、そのままトントン拍子で中途採用が決まりました。
ー「P&Gジャパン」での経験をお聞かせください。
P&Gには約5年間在籍しましたが、最初の3年半は正直苦労の連続でした。というのも、消費者の気持ちになって商品を考えることが自分には難しかったんです。「石井君、主婦の気持ちわかる?」なんて言われても、ピンとこず…。「マーケティングって自分に向いていないのかな?」って悩むことも多かったですね。
そんな状況が多少なりとも一転したのは、シンガポール駐在のときでした。ある日、偶然いきなり自分に大きな裁量が与えられたんですよ。「よっしゃ!好きなようにやってみるか!」と本気で取り組んだところ、周りの見る目も評価もガラッと変わったんです。
その後は昇進にもつながり、仕事も面白くできるようになりました。何より「信頼されて自由に動ける」ことが、仕事の醍醐味だと実感しましたね。
安定のエリート街道を離れ、「株式会社MD」で新たな航海
ー「P&G」の退社から独立するまでの経緯をお聞かせください。
P&Gではそれなりに順調な道を歩み、辞める直前には次のグローバル案件の話も上がりました。でも、「もうすぐ30歳になるのに、このままサラリーマンをやり続けていいのか」と疑問に思っていたんです。
ちょうどその頃、知人経由でマーケティング支援の副業を始めてみたら、びっくりするほどスムーズに大きな案件を獲得できて。それが「独立しても絶対やっていける」と確信したきっかけでした。
結局P&Gを退社したのは29歳11ヶ月で、目標にしていた“30歳までに社長”を思わぬ形で実現した形になりました。
ーこれまで石井さんが思い描いていた「起業家への道」と実際に歩んできたキャリアの実現には、どんなギャップがありましたか?
振り返ると、東大から住友商事、P&Gと、王道とも言えるエリートコースを歩んできたつもりでした。でも、まったく違うやり方で事業を大きくしたり、自力で上場したりする人が周りにどんどん現れてきたんです。
自分は”エリート街道”という高速道路を走っているつもりだったのに、気づけば高速道路に乗らず、山にトンネルを掘って突き進み、遥か先に行ってしまった猛者たちがいる。そんな現実に愕然としたこともありました。嫉妬していた、といっても差し支えないかと思います。
これに似た面白い話があって。ヤマメとサクラマスが実は同じ種類の魚だって知ってましたか?川で縄張り争いに勝った者が、ヤマメとして川に残るんです。一方で居場所を追われた者は、仕方なく川を下り、やがて海へ辿り着きます。海は餌も栄養もたっぷりで、川にいた頃よりもスケールアップしてグングン成長するんですよ。そして、デカくなってサクラマスとして川に戻ってきます。海から戻ってきたサクラマスは、川に残ったヤマメと比べて見た目もサイズも立派で。「お前、本当にあのときのヤマメかよ!?」なんて、嫉妬しているのかもしれません。
自分のキャリアもこの話と重なる気がするんですよね。今までヤマメとして居心地の良い川に残っていたつもりが、ふと周りを見ると、意外な人物がサクラマスになり、ステージを変えている、みたいな。なんだか自分だけ、あの頃のままの川魚みたいで…。そんなメタファーを感じたことが、独立への決断をさらに後押ししましたね。
「このままじゃ絶対にダメだ」という危機感に背中を押されて、自分も大海に漕ぎ出すタイミングを図り、2020年7月3日に「Marketing Demo株式会社」を立ち上げました。そして、2022年8月23日に社名を「株式会社MD」へ変更して現在に至ります。
アービトラージ戦略を武器とした、MD流マーケティングコンサルティングの誕生

ー「株式会社MD」は、どのようなビジネスモデルからスタートしたのでしょうか?
創業当初は、P&Gのような”世間で評価されている会社”でのリアルなナレッジを、自分の時間とパッケージにして提供する戦略で始めました。
P&Gで当たり前のように共有されている知識や会話は、一般的な会社にとって喉から手が出るほど欲しい情報だったんです。そこには明らかな情報格差、いわゆる「アービトラージ」があったので、「これを商品として売ろう!」と考えました。
そこで、自分がマーケティングに詳しいぞ、ということをアピールするために、『【1時間で分かる】P&G流マーケティングの教科書』をnoteで公開しました。かなりの力作だったんですが、これがめちゃくちゃバズって、「石井=マーケティングに詳しい人」というイメージが一気に定着したんです。
創業して1ヶ月ほどでnoteを公開したんですけど、すぐに問い合わせが殺到して、1日で10件近い打ち合わせが入ることもありました。さらに「この価格でこういうコンサルをやりますよ」と値付けすると、面白いように案件が取れて、2ヶ月目には月500万〜600万円の売り上げになったんです。
個人でやっていたので、気づけばビジネスモデルを練る暇もなく、自然と案件が回るようになっていました。
ー初期のコンサルモデルから、どのように方向転換していったのでしょうか?
もともとのアイデアは、世の中のマーケティング知識と、自分だけが持つP&Gでのノウハウのギャップを活かして稼ぐものでした。
最初は「1時間で数十万円」といった高単価のアドバイスを何十社にも提供するスタイルでしたが、実際に10分〜20分ほどお話しを聞いて、40分で回答して結果を出すなんて、無理なことなんですよ。そこで、会社数を絞り、その分がっつりオペレーションまで深く入り込むモデルに切り替えて、個別企業から100万円単位で報酬をいただく形にしました。
「有名な大手コンサル会社に頼みたいけど、高すぎて無理…」という企業様が、もっと現実的な金額でマーケティングコンサルティングを求めて、当社にご相談されるケースがすごく多かったです。
ただ、マーケティング戦略コンサル自体はおそらくせいぜい数十億円規模と、めちゃくちゃ大きい市場ではないんです。自分がずっと稼働し続けないといけないですし、新規案件を集めるのはハードだし、「これはすぐに頭打ちになるだろうな」と早い段階で感じていました。
とりあえず顧客がいるうちは続けようと思い、2年半くらいはコンサルを回していました。結果として、自分を含めた3名チーム編成で、2億〜3億円の売上を作ることができたのは、個人としても会社としても大きな成功体験だったと思います。
創業初期の融資は苦労せずスムーズに
ー事業計画書の作成や資金調達で苦労されたこと、スムーズに進んだことをお聞かせください。
起業準備はすべて自分で進めたんですが、特に苦労することはなかったです。
資金に関しては、最初に日本政策金融公庫から1,000万円を借りましたが、これは絶対に必要というより、何かあったときの備えとして確保したものです。
特に事業計画といったものはなかったのですが、頭の中にある構想をそのまま資料化しました。当時、大企業向けのマーケティングを効率化するオンラインツールを企画して、最終的には1億5,000万円で売却することができました。これは本業とは別の企画でしたが、後々考えるとこのお金で事業を大きくできたので、必要なアクションだったと思います。
そのマーケティングツールを携えて、マイクロソフト社が提供していたスタートプログラムに応募しました。最大20名分のアカウント作成費用と、サーバー代1,200万円までの支援が受けられる内容です。これは出資ではなく、優秀な人にリソースを貸してくれるプログラムでした。応募申請からマイクロソフト社の担当者とのやりとりまで、すべて英語対応が必要だったので、日本企業の応募数はかなり少なかったです。
僕は英語ができたので、必要書類を全部英語で作成して、銀行に提出する資料も英語で書き直してプレゼンしました。結果、無事に採択されて、必要経費をマイクロソフト社がすべて出してくださったので、創業当初は全然お金がかからなかったですね。
ー起業直後のリスクに備えて、他にどのような対策や事業戦略を意識しましたか?
最初の集客や顧客獲得が思うように進まないと、売上が立たず、お金がどんどん減っていく消耗戦みたいなフェーズになる可能性があります。
世の中には、「自分が死ぬほど頑張れば勝てるビジネス」と「どれだけ頑張っても最後は運ゲーになるけど、当たるとリターンがデカいビジネス」の2種類があります。自分としては、両方を事業のポートフォリオにしっかり組み入れて、バランスを取ることが大事だと思っています。
僕のようにまとまったお金がない中で創業する場合、「やった分だけ確実に成果につながるビジネス」をポートフォリオとして持っているほうが、心の健康という意味で、お金以上の価値がある気がしますね。
B2C/B2Bブランド事業で成果を残し、いつか「偉大な会社」として認められたい
ー「株式会社MD」が掲げるビジョンやミッションについてお聞かせください。
当社には、ビジョンやミッションといったわかりやすいスローガンは実はあまりなくて。ただ、自分自身の中には「偉大な会社になる」という目標があります。偉大さとは、すなわち「規模感」だと考えています。
その「偉大な会社」というのは、例えば自分の創業と前後10年、つまり2015年から2025年くらいまでに生まれた会社の中で一番になれるような会社のこと。自分の感覚では、GMOさんはまさにそういう類いの会社ですね!
トヨタやユニクロが尊敬に値するのは、その社是が優れているからではなく、規模が大きいからです。規模が大きければ、多くの人を養い、納税し、結果として世の中からのリスペクトを得ることができます。規模を持たない「偉大さ」は、少なくとも株式会社では僕は想像が付きません。
価値ある時間とナレッジをプロダクトに移した、MDのB2Cブランド事業戦略

ーマーケティングコンサルティング事業から、B2C化粧品ブランド事業にシフトした理由をお聞かせください。
その理由は明確にあります。何百万円もの報酬をいただくようなマーケティングコンサルティングは、マグロ漁船のように「一発取れたらものすごくデカいビジネス」です。もしその一発が取れなければ、一瞬で価値を失って敬遠されるので、リスクも非常に高いんですよ。
そういったサービスって、知識も経験も豊富な人間や、厳しい環境でバリバリ活躍してきた人間じゃないと提供するのが難しいと思っています。
だからこそ、自分たちが持つ「時間」と「ナレッジ」自体を商品として売るのではなく、その商品価値をプロダクトに移したビジネスを展開したいと考えるようになったんです。「ブランドづくりを語るなら、実際に自分たちでブランドを立ち上げてみよう」ということです。
マーケティングコンサルティングを3年続けたところで、ある程度資金に余裕ができたので、そのタイミングでプロダクト型のサービスの提供も始めました。その延長線上で、自社化粧品ブランドの販売も始めたという経緯になっています。
ーB2C化粧品ブランド市場への参入に向けて、どのようなアイデアや勝機があったのでしょうか?
P&G在籍時に、卸会社を経由して全国のドラッグストアへ商品を展開していました。その経験から”卸の勘所”を理解していたので、「自分たちが専門家として的確にプロモーションを行えば、自社ブランドも売れるだろう」という自信があったように思います。
結果として、自社ブランド販売を始めた初期に約6,000店舗だった取扱店数は、今では約12,000店舗まで拡大しました。こういった実績をしっかり残せたので、予定通り化粧品にフルシフトしました。
顧客志向×現場パフォーマンスで勝負する、MDのB2B化粧品OEM事業
ー2024年1月から、B2B化粧品OEM事業に参入した理由をお聞かせください。
自分はP&G出身、そして一緒にMDを立ち上げたメンバーも大手代理店で活躍してきた人材なので、元来脳みそがB2Cよりです。
でも、実際やってみてわかったのが、化粧品業界って「企画」と「製造」がきっちり分かれているんですよ。大手ブランドでも、半分以上は外部のOEMで商品を作っています。規模が大きい商品じゃないと自社で作る意味がなくて、「だいたいのものは外部に頼む」というのが普通なんです。
実はOEM会社とやり取りした際、「メールが返ってこない」「2週間何も音沙汰なし」ということが普通に起こっていました。そこで、僕たちが生産性高く動き、高いパフォーマンスを出せれば勝機があるんじゃないかと思い、B2B化粧品OEM事業への参入を決めました。
小さな工場を買収してB2BのOEM事業を始め、今は1年半くらい経ちました。その後工場も拡大し今では第四工場まであり、製造キャパシティは国内でもそこそこのものがあります。当社で最も力を入れている事業で、B2C化粧品ブランド事業も両立しながら、B2C事業でもヒットを出す、というサイクルを生み出しています。
自分色の強い集客から、「巨人」の力を活かした認知獲得戦略へシフト
ーサービスの認知拡大において、特に力を入れたアプローチとは何でしょうか?
立ち上げ当初は、バズったnoteを活用して集客につなげ、noteの反響が落ち着いてきた頃にYouTubeで解説動画のアップも始めました。今は半年以上何も更新していませんが、それでも1万2,000〜3,000人規模のチャンネルに育ったので、そこから安定的に問い合わせが来るようになりました。
ただ、このやり方だと「自分色」がどうしても強く出過ぎて、何百社ものお客様を相手にするには限界があると感じたんです。そこで、化粧品ビジネスに参入してからは、逆に「いかに自分の色を消すか」を意識するようになりました。
たとえコストが高くても、正しいメディアへの広告投資を増やして、再現性重視で顧客獲得を目指す戦略を取りました。
例えば、ベイコスメティックスのようなBtoB事業では、単に広告で「うちで化粧品作りませんか?」と訴求しても簡単には響きません。
そこで、GMOさんのような「巨人」の力を借りつつ、自分たちがちゃんとした会社であり、信頼できるパートナーであることをセミナー登壇などで発信し、バリューを高める活動に注力しているところです。
こうした信頼構築の場をいただいたお礼として、自分たちの知見やコンテンツをシェアする形になっています。
当然、海外にも進出する

ー今後、新たに展開しようと考えているビジネスがあれば簡単にお聞かせください。
これからも基本路線は変えず、まずはビューティーケア分野でさらなる事業規模を拡大していく方針です。
具体的には、商品のポートフォリオをもっと充実させて、工場設備に関しても10倍の規模へ拡張することを計画しています。新規事業もありますが、まずは既存事業のスケールアップがメインになりますね。それほどに、化粧品事業の奥行は広がっていると考えています。
新たな展開という点では、すでに台湾を中心に海外展開していまして、台湾だけでも大きな売上が上がっています。アメリカでもすでに動き始めていますし、手応えをしっかり感じていますし、いつかはJ-Beautyのリーダー格となれるように、このままガンガン攻めていきたいです。さらに今期中には、マレーシア、シンガポール、台湾、インドネシア、アメリカ、カナダと計7ヵ国で事業を拡大する予定です。
ちなみに日本のビューティーケア市場は意外と小さくて、ざっくり2兆円程度なんです。その市場だけで売上1,000億円の会社になるので現実的に難しいのです。まずは堅実に200億、300億と売上を伸ばして、500億を目指す。そして、1,000億という大台を目指すタイミングで、まったく違う事業にチャレンジするのもありかなと思っています。多分それは新規事業であって、BtoB寄りになる気がしますね。
「良いことはずっと続かない」と想定し、常に次のアクションを考える
ー経営者として大切にしているマインドを教えてください。
うまくいっているときほど、うまくいかなくなったときのことを考えておく。これってすごく大切なことなんです。
コンサルティング業がうまく回っていたとき、自分以外の周囲は「このままコンサルをどんどん拡大させればいいじゃん!」と言っていました。でも、自分としては「いや、うまくいかなくなったときの備えをしておかないと」と思って、あえてコストのかかる化粧品ビジネスや工場への投資に踏み切りました。
noteやYouTubeの集客が盛り上がっていた時期も、「いつか反応が鈍くなったときにどうするべきか…」を常に考えていました。B2C事業でヒットが出たときも、すぐに工場を買ってB2B事業にも参入して、ブランド開発一本足ではなく複数路線をつくるように動きましたね。
基本的に、良いことはずっと続かないと思っていて。「続いたら儲けもの」という前提で、より勝負が難しいフィールドに挑戦するんです。掛け金はデカいけど、これから安定するであろうビジネスに常にベットしておく。これは投資的な発想ですけど、こういう判断って物事がうまくいかなくなってからではなかなかできないんですよ。1勝3負くらいで、トータルでは大きく積み上がっている、というのが理想でしょうか。
自分が精神的にも時間的にも安定しているときに、正しい判断を下す。これも大事なことです。
事業の成長を止めない。それがメンバーのポジティブな変化につながる
ー組織と社員の成長を促すために心がけていることはありますか?
まず前提として、「人はそんなに成長しない」と思っています。成長っていう言葉は、子どもの身長くらいに使うもので、正直大人にはあまり当てはまらない気がするんですよね。
結局、人が変化するっていうのは「成長」じゃなくて、「適応」だと思うんです。新しい環境に適応できた人のことを、都合よく「成長した」と表現しているだけなんじゃないかと。
「成長=適応」として話を進めると、人も組織も「環境」が変わらないと成長しないんですよ。つまり、社員が成長したから事業が伸びるのではなくて、事業が成長した結果、みんなが適応せざるを得ない状況になるーーこれにより、人も組織も変わっていく。つまり、同じ規模で同じことを続けていたら、どれだけ努力しても成長はしないということです。
経営者である自分としては、「事業の成長を止めない」ことが重要なミッションであり、それさえ続けていれば、組織もメンバーも自然と育っていくと考えています。
ーメンバーとのコミュニケーションで注意していることはありますか?
基本的に「嘘をつかない」「ポジショントークをしない」ことを心がけています。
でもこれって難しいところで、仲のいいメンバーとばっかり飲みに行っていると、依怙贔屓だと思われることもあるんです。実際にそういうことになりがちなので、「嫌なことも遠慮なく言ってくれるタイプ」のメンバーも近くに置くように意識しています。
歴史上で皇帝などの専制者がイエスマンばかり重用した結果、失敗するパターンへの反面教師ですね。そうならないように、ちゃんと自分でもメタ認知するようにしています(笑)。
関わる人すべてからリスペクトされる「立派な経営者」になりたい

ー株式会社MDと石井さんご自身の将来ビジョンをお聞かせください。
ちゃんとリスペクトを得られるような自分、そして会社でありたいなと思っています。リスペクトといっても、不特定多数からの承認が欲しいわけではないんです。テレビに出て有名になるとか、そういうわけではありません。
自分が求めるリスペクトというのは、会社の規模を問わず、メンバーや取引先、直接関わる人たちから「立派だなと思ってもらえること」です。そのほとんどは、前述した通り規模からくると考えています。
「MD」の成長戦略としては、春秋戦国時代の陣取り合戦と重ねて見ている部分があります。自分は中国の春秋戦国時代や、三国志の時代が大好きです。要は「陣取り合戦」をずっとやっていた時代で、現代のビジネスもある意味、戦争そのものだと思っています。綺麗事を並べても、実際は消費者の心の中や店頭の棚、極論言えば「財布」という陣地の奪い合い。そんな時代で勝ち続けたいですし、絶対に負けたくないという強い意志があります。
他国を吞み込むくらいの気持ちで、「MD」を勝ち続ける会社に成長させていきたいです。
>ー経営者になってよかったと思えたことをお聞かせください。
会社の業績以外のことで悩まなくてよくなったことですかね。
従業員だった頃は、「自分って本当に成長しているのかな」「土日に遊んでいても大丈夫かな」「この言動が昇進に響くんじゃないかな」なんて、細かいことをいちいち気にしていたと思います。それも全部、上を目指していたからこその健全な悩みで、周りが土日にMBAに通ったり夜間学校に行ったりしているのを見ると、ものすごく焦ったりしたんですよね。でも今は、そうした焦りなんてまったくないです。
意思決定を自由にできることも、経営者の魅力的な要素です。でも、なんでも好き放題できるわけじゃないです。リスペクトを得ようと思ったら、平日にずっとゴルフしてるわけにもいかないですしね。経営者だからこそ、むしろ不自由な面も多いかもしれません。強いていえば、「好きなときにお寿司を食べたり、ミシュランの三ツ星店に行けるようになった」くらいでしょうかね。
センスこそすべて。センスがなければ頼れる味方を作ればいい
ー経営者を目指すうえで必要な要素とは何でしょうか?
これは、絶対に「センス」ですね。
結局、みんな同じ情報を手に入れて、同じような教育を受けて、似たような情報環境で生きていると考えています。住友商事でもP&Gでも、やっていることは提案書を書いてハンコをもらって…って実はたいして変わらないんですよ。
AI時代になっても、みんな同じ漫画を読んだり、Netflixを観たり、本質的な差ってあんまりないんです。ということは、そこから何を感じ取り、どうやって新しい儲け方を見つけていくか──ここが、全部センスだと思うんです。最終的に何をするかは、やっぱりセンスでしか決まりません。でもそのセンスは、誰かに教えることも、教わることも絶対にできないんです。
これは自分で勝手に解釈している部分もあるかもしれませんが、歴史上の偉人って、本当にセンスがあって。例えば、軍師や将軍って、今みたいに本で戦略が学べる時代じゃないはずなのに、なぜか圧倒的強者がいます。それこそ、センスだと思うんです。なぜか高台を確保して、敵を陽動して、少数で突破する──カエサル、キングダムの桓騎、義経、みたいな、「なぜか勝てるタイプ」が存在するんですよね。
ビジネスの世界でも、センスがものを言うと思っています。経営の現場で何を感じ取るか、どこを勝負どころと見るか、そこにセンスが求められます。ただ、必ずしも自分が大谷翔平のようにホームランを打つ必要はなくて。自分にセンスがないと気づいたら、センスのある人と組んでビジネスをすればいいんです。そういった立ち回りが大事になってくると思います。
起業をもっと気楽に考えて、山頂を目指す道中も思いっきり楽しんでほしい
ー起業を目指している読者にメッセージをお願いします。
よく「起業=ハードシングス」みたいなイメージを持たれがちですけど、みんなが言うほど辛いものじゃないと思います。もっと気楽に考えるべきです。
上場やM&Aといった山頂の景色を目指して山登りをするのはもちろんいいんですが、ぜひ道中の景色や会話も楽しんでほしいです。僕なんて、最初から頂上を決めず、「山登りって楽しいじゃん!」という感覚でここまできています。
経営者にはサラリーマンとは別の競技をやっている感じがあって、ビジネスが順調であれば心の健康も保てます。仕事もある程度は自由に作っていけます。
ただし、自分で始めたゲームだからこそ、最後まで責任をしっかり果たさないといけません。でも、その責任でさえ楽しみながらやれるのが、会社経営なのかなと考えています。
今起業を考えている人は、気負いすぎず、まずは仲間との道中を思いっきり楽しんでほしいです。
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起業には個人事業主としての開業と会社設立の2種類があり、事業形態に合わせて選ぶことが大切です。また、起業のアイデアをまとめたり、事業計画書を作成したりといった起業の流れを把握し、十分な準備を整えるようにしてください。
一度起業すると、資金や従業員の管理、納税など多くの責任を負わなければなりません。過去の成功事例も参考にしながら、自分なりのビジネスを展開できるよう起業アイデアを練ってみましょう。
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- ※本記事の内容は取材時点の情報に基づいて作成されたものであり、今後変更される可能性があります。
- ※本記事は一般的な情報提供を目的としております。個人の状況に応じた具体的な助言が必要な場合は、専門家にご相談ください。
- ※本記事に掲載された情報によって生じた損害や損失に対し、弊社は一切の責任を負いません。
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